2013年3月18日

オープンデータとアクセシビリティ

Wordle, telling it nicely, by suzannelong on Flickr, CC BY-NC-SA 2.0
クラウドが普及して、さまざまなWebサービスが連携しAPIを介して協調して動くようになった。APIで扱われるデータの多くは、JSONだったりXMLだったりするが、それらはセマンティックに味付けされたものになり、コンピュータで自由に加工できる、新鮮で、滋味あふれる原材料になった。

HTMLで何でも処理していた時代には、3/18 と書かれているのが3月18日なのかそれとも18分の3なのかわからなかったけれど、APIで意味付けされたデータなら、たとえそれが "3/18" という文字列であっても、処理は容易だ。スクリーンリーダーが解釈しようと頑張ったのに、間違って「18分の3」と読み上げることもない。


ご存じかも知れないが、話を続ける前にちょっとこのサイトをみておいてほしい。
http://traintimes.org.uk/map/tube/
Live map of London Underground trains
これは、ロンドンの地下鉄の運行状況をGoogle Map 上で表示されるように Matthew Somerville さんが作って公開しているものだ。ズームして見ると、車両がリアルタイムで動いているのが分かる。なぜこんなことが可能かと言えば、ロンドン市交通局がAPIを公開しているからだ。見てみればわかるように、この地図は誰にも使えるようなものではないし、スクリーンリーダーで読み上げることは不可能だろう。適切にマークアップしても、おそらく音の洪水だ。このようなリッチでリアルタイムの情報を表現するとなると、Webサイトのアクセシビリティの困難さはメジャーリーグ級になってしまうだろう。

かつて、あるアクセシビリティのメーリングリストでこんな議論があったのを憶えている方もいるだろう。ざっくりとしか覚えていないので、やや創作に見えるかもしれないが。

「セカンドライフのアクセシビリティはどうなんだよ?」
「セカンドライフはAPIを公開しているからそれを通じて利用可能だそれでいいんじゃないか」

バーチャル3D空間みたいなものをAPIがあればアクセシブル=利用可能というのは、ちょっといきすぎていると思わないでもない。でも、アバターが表示された3D画面を音声化するなんてことができるとは思えないし、そういう意味でいまのところ「APIがあるから良い」という判断は手ごろなところだろう。詳しい事はここに書いてありそうだけど、読んでいないので各自どうぞ。
Second Life Accessibility
「Twitter が使いにくい」「パソコンだといいけど、iPhoneアプリだと使いにくい」などとアクセシビリティのさまざまなクレームも、APIを公開しておいてコミュニティを支援したり、すごいやつが現れてアクセシブルバージョンを作ってくれたりする。そんなことがデータを公開することで可能になる。古い時代のHTMLはたしかにユニバーサルで誰にも使えるドキュメントフォーマットだった。でも、CSSが複雑になり、JavaScriptでクルクル動くようになり、何でもWebでアクセスするアプリケーション化が進むと、どうすることもできなくなるのは目に見えていた。HTML5 ではそこのところをいろいろ改良してはいるけれど、それでカバーできるアクセシビリティもやはりドキュメントとしてのHTMLの範囲だろう。

ブログなんかもそうだ。複雑なレイアウトや動的でリッチなページデザインが増えている。Tumblr とか Google+ なんかもそう。でも、RSS があれば最低限の記事を読むことはできる。RSSは古くて新しいセマンティックだ。問題があるとすれば、画像とか動画くらいのもんだ。

そう、HTMLではなくデータで公開する時代になったとしても、画像の代替テキストは欲しいだろうし、動画にはキャプションが欲しい。でも、データベースにはそれを入れておくフィールドがあるだろうか?APIで指定できるフィールドは?

オープンデータはアクセシビリティにとって強い味方になりうる。誰にでも使いやすいWebを作ることが難しい時代には、APIはそれを救う唯一の道になる。もし、データベースやAPIにアクセシビリティの要素がなかったとしたら、それは大きな損失になる。そのことを多くの人に気付いてほしいと思う。いやおそらくすでに多くの人が気づいていると思いたい。

アクセシビリティという言葉は、オープンデータで「障害者のための」という言葉を冠する必要のない本当のアクセシビリティになるのだから。



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